2022年度卒業生インタビュー(後編)ーーやりたいことはやれた。でも、もっとやりたかった

 前回に引き続き、2022年度卒業生の大石茉幸(おおいし・まゆき、写真右)さんと田坂美夢(たさか・みゆ、写真左)さんにお話を伺います。お二人は学生生活の中で、外部イベントやプロジェクトへの参加、展示の企画などを積極的に行ってきました。ここでは、二人で企画・運営をした学内展示『キャンパスナップ』をはじめ、外部での活動、4年間の学生生活の振り返り、後輩となる学生や今後芸術教養領域を志望する方々に向けてのメッセージなどについてお話し頂こうと思います。(※前後編に分けて掲載しています。この後編では学外活動のお話の続き、4年間の学生生活のお話、芸術教養を志望する方へのメッセージについての話題をお送りします。『キャンパスナップ』や学外の活動の前半部分については前編をご覧ください。)聞き手・鈴木まな(領域助手)


ーーーーー外部へは、2人とも三年生から出ていましたか?

 

大石(以下、O) そうですね…。二年生の時はなんというかやりようがなくて。みんながどんな意思を持ってるのかも全然分からない状態だったし、美夢ちゃんもその時から何かやりたいと思っていただろうし実際やってたかもしれないですけど、それでもあんまり知らなかったです。やっぱ三年生の、コロナがちょっと落ち着いてきて自宅待機がなくなって、授業が再開したときくらいから「やりたい」っていう話を聞いていました。それがあったので、私も美夢ちゃんに影響されてそういう活動に走ったのもあるかもしれない。

 

ーーーーーこれまで2人は結構刺激しあってきたという感じでしょうか?

 

O そうですね。逆に美夢ちゃん以外の人が何をしているのか知らないぐらい。でもそれくらい、お互い「◯◯したいね」とかって話を密にしてたよね。

 

田坂(以下、T) 実際私も『土曜市』は何回かボランティアとして参加させてもらっていて。それも(2人で)話してたから声かけてくれたっていうのはあったよね。

 

ーーーーーこういうふうに同期同士で励まし合えるのは良い関係ですね。

 

O 確かに田坂さんには影響を受けていないわけじゃないですけど、「一緒にこれやろうよー」みたいな、なんて言うんだろう…。

 

ーーーーーいわゆる”連れション”的なこと?

 

O それです!そういうのではなかったなあって、今話していて気付きましたね。腑に落ちたと言うか。友達でもあるけど、”相棒”的な感じもしていて。(笑)

 

ーーーーーでは、芸教での4年間はどうでしたか

 

O ざっくり言うと、「やりたいことはやれた。でも、もっとやりたかった」!

 

T うんうん。私は結構1年生の時から演奏会とか外部で企画したりしてたんですけど、圧倒的に1、2年生の時は知識が足りてなかったなって今振り返って思っていて、だから動き出した3年生の時にはやっと自分のやりたいことに知識とか実力がついてくるようになったなとは思っています。まあ3年生でも正直ちょっと足りてなかったなとは思っているんですけど。やりたいけどやれないもどかしさが1、2年生の時にはあって、特に2年生の時はもっと動きたいのに動けない、もっと勉強もしにいきたいのにそれすらもできなかったっていうのが結構キツかったなっていうふうに思っていて。

 

ーーーーーそれはやはり新型コロナウイルスの影響で?

 

T コロナですね。1年生の時は授業も多かったりとか自分としても余裕がないし、学校で授業の中で詰め込んで、みたいな感じですね。でも2年生の時から動けてたらもっとやれてたのかな、とか。本当は『キャンパスナップ』も、私が前期の時にやってた『まぜこみわかめ』も、3年生の時にやりたかったな。それを踏まえてもう一回4年生でやりたかったなって。

 

O それはすごい面白いかも。それはそれで。

 

T 学校内でやる企画だったら余計、下の学年の子たちが見てて、「今年もやるんだったらぜひやりたいです」って言ってくれる子もいるかもしれない。そうやってアップグレードしていくっていうのも見たかったなって。でもこのコロナ禍の中ではやりきれたほうなのかな、とか。

 

O 1年の時は全力疾走で、それこそ詰め込んでたし、「よし!じゃあ2年から何かできるんじゃないか」って思ってたその中で(コロナで)ゴーン!となって。(笑)「あー、もうダメだー」って、反動がどんどんマイナスになっていく感じがあって、萎縮してたし、うわあどうしよう、何したらいいのかな、って。「『おうち時間』って言うけど、何すりゃいいの!?」みたいな。自分はサークルもやってたんですけど、サークルもできなくなっちゃって、今も全然活動できてないくらいになってしまったので、自分がこれから大学生活の中で何か支えになるものとか、勉強していかなきゃいけないものとかっていう指標が全部粉々になったじゃないですけど。っていうのはすごくあったけど、その中でやりたいっていう反動が3年生からついてきて、何かしてみたりっていうのもあったし、自分が勉強したいこと、元々学芸員資格を取って学芸員にもなりたかったし、美術の勉強もしたかったから、いろんな授業を取ったりもしたけど、やっぱり空白の時間というか、2年の時何ができたら今後こうなってたのかなーとかちょっと考えたりしてしまいますね。

 

ーーーーーお二人は、学生視点から、どんな人が芸術教養領域に向いていると考えますか?

 

O 自分の「好き」とか、まあ「好き」がない子も全然いるし、でも考えとかは絶対持ってるなっていうのは同じ学年でも下の学年の子たちに対しても思っていて、それを持ち続けられる人かなと思います。そして影響されあったりとか、「こういう考えがあるんだ」って柔軟になっていく過程で、人の気持ちを知ったりできるんじゃないかな。最初は「個性」っていうのが強かったんだけど、その個性に「知識」とか「考え」とか「ひとの思考」だとかが付随してきたっていう感じがするから、自分の中で芯を持っていられたらって思う。私は美術が好きだけど、友達に全然美術が好きじゃない子がいて、でも「なんで嫌いなんだろう」って考えてそれを論文に書いたりもしたし。まあその子の気持ちは結局分からなかったんですけど。でも「やっぱり美術館って好きじゃないな」って話していた子もいて、それを許容できるとか、「なんでだろう」とか(考えて)、影響されあっていく、柔軟になっていく思考っていうのは大事なんじゃないかなって。それが自分の踏み出す一歩になっていくんじゃないかなって。私たちの学年も何がきっかけで話すようになったとかは明確にはないんですけど、「あの子ってこうなんだ」みたいなのがどんどん増えていくといいなって。その中で「芸教ってなんだろう」って思うかも知れないけど、自分たちなりの解釈でいいかなって思いましたね。3年生の時のレビューで「芸教ってなんだろう」みたいな提案をしたんだけど、あれとはもう全然違うかも知れない。なんて書いたかも覚えてないくらいだけど。

 

T 思ってたこと話してくれちゃった(笑)。でも、本当に芸教だけだなって思うのは、「芸教って何してるの」っていう問いですね。私、2年生の時のレビューのパネルで書いたんですけど。みんな散々聞かれてきたし、でもずっとちゃんと答えられた自信がなくて。で、多分みんながこのもやもやを抱えたまま卒業するんだなって気がしていて。でも卒業の時には、なんとなく自分の中でうまく言葉にはできないかも知れないけど、自分の中のイメージとか振り返ってそれぞれで答えを出せるっていうのがすごい面白いなって思っていて。私たちが入った時のキャッチコピー、「何者にもなれる君へ」。じゃあ私たち何者になるんだ?って。去年のレビューの時、みんな考えてたんだなって思いました。なんかそこで少し安心したというか、自分だけじゃなかったんだこの悩み抱えてるのっていうふうに思って。でも結局、この芸教でいろいろ勉強して、いろいろやっていくってなった時に、さっき発信についての話をしたと思うんですけど、その時にやっぱり聞かれるんですよね。何をしてる人です、こういうことがやりたいんです、っていうところは、随時更新していけるというか、考え続けていける、考え続けていかなきゃいけない。自分がやりたいことっていうのを見出すためにも考え続けていけば自分なりの答えが出せるんじゃないかなって思うから。常に芸教って何してんのっていうのをどこか頭の片隅にーー芸教に入ったらイヤでも残ると思うんですけど、まあそれについてをポカーンとしてるだけじゃなく考えて、その時々で自分を振り返る時間を作れたら。まあ、(そういう時間を)作れる人とかは結構芸教で充実できるんじゃないかなって思っています。

 

ーーーーー最後に、これから芸教を志望する人々にメッセージをお願いします。

 

O いろんな要素を自分の中に取り込める学科(領域)だと思っていて、それが授業を受けているうちは明らかにならないかもしれないんだけど、「取り込もう」と、強制的な意味ではなく、勉強しようっていう気持ちや、「何かに繋がらないかな」っていう思考があると、自分の活動とかみたいに達成感を感じることが4年間の中でもっともっとできると思うから、一つ一つの自分の考え、ひとの考え、授業の中でのすごく気になった要素とか…私は茂登山先生(故)の授業の「椅子」の話をきっかけに家具に注目するようになりましたし、それが一つの自分にとってのアイデンティティになってきたりもするから、自分が一つ一つの喜怒哀楽のなかで感じるもの、温度は低くても察知する能力とかセンサーは常に持ってて欲しいなあ。そしたらもっともっと踏み出す一歩にはなってくると思うので。私はそれが一番かなって思います。

 

 

T 私もセンサーは大事だなって思います。ただ、私は結構企画がやりたいとか思いながら入学しましたが、全然そうじゃなく入学した子も案外多くて、話を聞いているとそういう子たちの個性も強くて。「好き」っていうものがまずはっきりしてるなあって思ったんですけど、芸教の人たちの面白いところって、ただ好きってだけでなく、なんで好きなのかを自分で考え始めるし、例えば卒業論文とかが最たる例だなと思うんですけど、ラブドールとか魯班尺とか、それってもう「好き」を突き詰めていった結果があれだけの論文になってて、そういうところはすごく面白いなって思います。だから、いろんなことに敏感になるのももちろんなんですけど、自分の感情とか、「なんでこれが好きなんだろう」とか「こういうふうに感じたんだろう」とかを大切にしてほしい。私の論文のきっかけは音楽領域の友達と関わっている時にモヤっとしたことがきっかけで、いろいろ考えるようになって、論文になったんですけど、なんかそうやって「好き」だけじゃなくてモヤっとしたこととか、すごく疑問に思ったこととか、ただそれを放置するんじゃなくて、一歩深掘りしてみるっていうところから、その先の自分が進みたい方向とか、自分がやりたいこととか、そういうのが見えてくるんじゃないかなっていうふうに思いますね。なので、「好き」を深掘りするというか、まあそれが一番やりやすい、自分が楽しいと思うんで。生活していく中でそれをしていくと、4年間楽しいんじゃないかなって思います。